この物忘れは歳のせい?それとも認知症?
外来をしていると、物忘れが気になるとおっしゃる方がしばしばいらっしゃいます。「先生、最近、人の名前が出てこないのよ。認知症なのかしら?」と質問を受けることがあります。「僕もよく出てこないですよ。それくらいなら心配しないで良いですよ。」とお答えすることが多いのですが、皆様やっぱり認知症の初期症状でないか気になるようです。今回は、物忘れの症状が、加齢によるものか、それとも認知症の症状なのかをどのように見分ければ良いかについて書きたいと思います。
<加齢による物忘れ>
・体験したこと自体は覚えているが、その一部を忘れる。
例)映画を観たことは覚えているが、出ていた俳優の名前が思い出せない。
・もの忘れの自覚がある。
・日常生活には支障がない。
<認知症による物忘れ>
・体験したことの全てを忘れている。
例)映画を観たこと自体覚えていない。
・もの忘れの自覚がない(ごく初期には自覚があることもある)。
・進行して日常生活に支障が出る。
認知症による物忘れでは、物忘れの自覚がないことが多いです。そもそも、物忘れを気にされている時点で認知症の可能性は低くなるわけです。また重要なのは日常生活に支障が出てくるかどうかです。認知症はどうしても進行に伴い、日常生活に支障が出てきて、それを周囲に指摘されることが増えてきます。医療者もこれらのことを参考に加齢による物忘れか、認知症の症状なのかを簡易的に判断することが多いかと思います。そのうえで認知症が疑わしい場合、もしくはご本人の心配が強い場合には、まずは問診で認知症のテストを行います(長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査と言われるもの)。
上記を参考に、加齢による物忘れに該当しそうな場合は、過度に心配する必要はないと思いますが、もし気になるようなら、かかりつけの医師などにまず相談してみるのが良いでしょう。
また、国としては、「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会」として、ケアする・されるという関係性から脱却した、認知症の人を含む「共生社会」という社会像を打ち出しています。現実化するのは容易なことではないと思いますが、「認知症になるのが怖い」と思わないような、そんな社会を作れていけたら良いですね。ご興味のある方は認知症施策の1つである「認知症サポーター」について記載されている下記のサイトもみてみてください。
https://www.caravanmate.com/
文責:今永