「訪問診療」と「往診」の違いについて
今回は「訪問診療」と「往診」の違いについて書きたいと思います。
医療制度における言葉の違いなので、それ自体は大事なことではないのですが、言葉の違いを理解することで現在の医療制度の中で、「自宅に訪問して診察する」ということがどのようなものなのか理解いただけるのではないかと思います。
ざっくり「訪問診療」と「往診」の違いを説明しますと・・・
「訪問診療」・・・何らかの理由で通院が困難であるが継続的な治療や経過の観察が必要な方に対して、あらかじめ立てた診療計画を基に定期的に行うものです。「通院が困難な方に対する計画的な在宅診療」ということですね。外来に来ることが困難な方に、外来の変わりに医師が自宅に訪問して診療するというイメージでしょうか。
「往診」・・・急な病状の変化があった際に、ご本人やご家族の要望を受けて、不定期に自宅に訪問して診療を行うことです。この「不定期」というところが訪問診療との違いですね。つまり、自宅に訪問して急病に対応するものですね。
ざっくりと2つの違いを書きましたが、ここで医療の変遷から訪問診療や往診を考えてみたいと思います。
まず、まだ医療技術の進歩が乏しかった時代は、急病になって病院へ行っても行える検査は少なく、自宅で医師にきてもらって受ける診療とそれほど差異がなかったわけです。そういう意味で、急病で病院に行くのが大変なときは、医師が往診して自宅で診療を行うことのメリットもあったわけですね。しかし、1970年代以降、画像検査や治療技術の進歩に伴い、急病のときには病院に行った方が的確な診断や治療が受けられるようになったわけです。そうすると、急病に対して「往診」を行うことはむしろデメリットの方が増えたわけです。しかし、ここで新たな問題が出てきます。救命医療の進歩に伴って以前は亡くなっていた方が助かるようになるわけですが、その一方で障害や後遺症をもって生活したり、加齢に伴って身体が弱る方が増えたわけです。また、病院で亡くなることが当たり前となるなか、がんや難病など時に治療が困難な病気を患った方で、病院ではなく自宅で過ごしたいという希望の方も出てきました。そのような方々をできるだけ住み慣れた自宅で過ごしてもらうために発展したのが「訪問診療」という診療の形態になります。訪問診療を受けている患者さんも、時にもとの病気が悪化したり、違う病気が起こったりして急な病状の変化があることがあります。その際には定期的に訪問する「訪問診療」だけではなく、臨時に「往診」で自宅に行くことがあります。元気な方が急病になるのと違い、もともと病気や障害がある方であったり、できるだけ自宅に過ごしたいという方であったりするので、医学的には病院医療の方が勝っていても患者さんにとっては往診の方が好ましい状況の場合もあります。
ちなみに、コロナ禍となって、往診を専門に行う医師がたびたびテレビでも放映されました。あれは特殊な状況下での出来事と思っていただいた方がいいのかなと思います。実際に、(普段訪問診療を受けていない方に)往診のみ行う診療に関しては、今後診療報酬が大きく減らされることになっています。その背景には実際に往診を受けた患者は小児が多く、本当に必要な医療であったのかという批判があるからです。当然、熱が出たときなどに自宅に来てもらい診療してもらえると便利だったり安心かもしれません。しかし、通常の外来と比較して多くの医療費がかかることも事実です。特に小児の場合には自己負担がない場合も多いので、診察される側の負担は少なく、公的なお金の負担が増えることになります。限られた資源(人、お金)をどのように使うかも大事な視点かなと思いますし、今後は適正化が図られるようです。
今回は、「訪問診療」と「往診」の違いについて書いてきました。在宅医療の必要性や救急医療との関係についても少し述べました。参考になれば幸いです。
文責:今永